ジャック・ホワイトはうんざりしていた。
彼がホワイト・ストライプスを結成したのは1997年のことだ。ジャックのギターとメグ・ホワイトのドラムのみで、ベースがいないこの変則的なユニットは、ブルースへの原点回帰ともいえる生々しさと、荒々しいギター・サウンドで人気を集めていった。
2001年の7月に発表した3枚目のアルバム『ホワイト・ブラッド・セルズ』は、一部の音楽メディアから最大級ともいえる賛辞を贈られたこともあって売上を徐々に伸ばし、年が明けて2002年になった頃にはロック・シーンに新たな風を吹き込む存在として知られるようになった。
ホワイト・ストライプス『White Blood Cells』
しかし、ホワイト・ストライプスが有名になったことで、2人を悩ませる問題が新たに生まれてきた。
ジャックとメグは元夫婦という間柄だったが、世間に対しては兄妹だと公表していたので、それがゴシップ雑誌にとって格好の的となったのである。地元であるデトロイトに記者たちが押し寄せてきて、2人の間柄を知る人物を探しては次から次へと、ことこまかに話を聞いて回った。
奴らは人を食い物にする
目の届かないところで嗅ぎ回ってるんだ
「2人は兄妹ではなく、元夫婦だった」という噂が広まるのに、さほどの時間はかからなかった。それまで友人だと思っていた人たちまでもが、記者の喜びそうな情報を提供していたことがわかってくる。
ついには2人の結婚証明書までもが、雑誌に掲載される事態になってしまう。
もう聞きたくないんだ
誰も彼もが「ここだけの話」ってのを手に入れ
今じゃみんながそのことを知っている
この街にいる限り自分のプライベートは存在しない、そう感じたジャックは音楽に専念するために街を離れることを決める。
4thアルバム『エレファント』の先行シングルとして、「セヴン・ネイションズ・アーミー」がリリースされたのは2003年3月だった。ゴシップに悩まされる2人の日々が、その歌詞には反映されていた。
俺はあらがってやる
7カ国軍だろうが止められやしない
この曲のタイトルはジャックが幼い頃に、<サルベーション・アーミー(救世軍)>を聞き間違えて、<セヴン・ネイションズ・アーミー(7カ国軍)>と勘違いしたときに生まれたフレーズだという。
軍隊のごとく群れて忍び寄ってきてはプライバシーを嗅ぎ回り、世界各国にゴシップを撒き散らす記者たちを示すのにうってつけの言葉だった。
このときジャック・ホワイト27歳。彼は自身のプライベートを守るため、世界中のゴシップ記者たちに音楽で宣戦布告したのである。
ジャックはそれ以前の2002年10月、アメリカのスピン誌におけるインタビューで、これまでの発言、つまりは兄妹だと公言したことによって、ゴシップ紙から狙われることになった現状について、後悔しているか聞かれた際にこのように答えていた。
「結局のところ、大事なのは20年後にそのバンドの音楽が評価されてるかどうかってことだけさ」
「セヴン・ネイションズ・アーミー」はオルタナティヴ・チャートで3週連続で1位となり、翌年のグラミー賞では最優秀ロック楽曲賞を受賞した。
それは音楽そのものへの評価はもちろん、2人のゴシップに対する怒りが支持されたことの証明でもあったといえよう。
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ホワイト・ストライプス『Elephant』
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