2011年の1月、動画サイトに投稿された1本の動画から、国境も世代も超えるネット時代における音楽の新しい物語が始まった。
イギリスの大学でクラシックを学んだ二人の若いチェリスト、ルカ・スーリッチとステファン・ハウザーが、マイケル・ジャクソンのヒット曲「スムーズ・クリミナル」をカバーした動画は、選曲やアレンジの意外性とテクニックなどが評判を呼び、半年で500万回もの再生回数を記録したのだ。
それがメジャーなレコード会社の目にとまったのは投稿からまだ間もない時期のこと、クロアチアに生まれ育った二人はこれによって注目を集めて、投稿からわずか半年後に「2CELLOS」の名前でメジャーデビューを果たす。
![2cellos album](http://pacheco.heteml.jp/music-imidas/wp-content/uploads/2013/04/2cellos-album.jpg)
デビュー・アルバムには12曲が収録されていたが、彼らが聞き親しんできたロックの名曲がそろっていた。
そこにはU2やスティングといったクラシック・ロックから、ニルヴァーナ、ミューズ、コールドプレイといったアーティストまで、幅広くレパートリーに取り上げられた。
それらの中で異彩を放っていたのが「HURT(ハート)」、トレント・レズナー/ジョニー・キャッシュの作と記されていた楽曲だ。
こんな歌詞から始まるへヴィーな内容の歌である。
俺は今日、自らを傷つけた
まだ感触が残っているのか、
確かめるために
俺は痛みに神経を集中させた
それだけが今のリアルだった
そもそもはトレント・レズナーが率いるナイン・インチ・ネイルズの楽曲として世に出た作品だったが、2002年にジョニー・キャッシュがカヴァーしたことで評判になった。
72歳となったキャッシュのヴォーカルは人生の苛烈さと深遠さ、その両極を感じさせるエモーショナルな力に満ちていた。キャッシュは長年にわたってドラッグ中毒で苦しみ続けた過去を持っていたが、「ハート」をカヴァーした動機についてはこう答えていた。
「アンチ・ドラッグという観点からみて、この曲以上のものはない」
「ハート」のミュージック・ビデオはキャッシュの人生を映像化した、4分弱の映画ともいえる内容で実に密度の濃い作品となった。
2005年にはマイケル・ジャクソンの「スリラー」を抑えて、ミュージシャンと音楽関係者によって選考された『歴代最優秀ビデオ・トップ20』で1位に選ばれた。
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ファットボーイ・スリムやビョーク、フランツ・フェルディナンドなどとともに選考者の一人だったR.E.M.のマイケル・スタイプは、こう賞賛した。
感動的。
監督のマーク・ロマネクの大胆さと勇気を賞賛する。
衝撃的なビデオだ。
そして美しい。
アメリカン・ミュージックに脈々と流れるテーマ、苦しみの中での切実な訴えという原点が「ハート」には見事に結晶化されている。それは映像によって、さらに訴える力を倍加させた。
ところで、これほど渋い曲をカヴァーして取り上げたところに、並ではない2CELLOSのセンスが光っていた。クレジットをWネームで記したのは、キャッシュへの敬意の現れだったのだろかもしれない。
現代のロックやポップスをカバーして順調にキャリアを重ねた2CELLOSは、2015年の1月には3枚目のアルバム『チェロアヴァース』を出すまでに成長してきた。
『チェロアヴァース』の1曲目「トゥルーパー」は、クラシックの「ウィリアム・テル序曲」(ロッシーニ)と、ヘヴィメタルバンドのアイアン・メイデンのマッシュアップ作品だ。
またエレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)のトップDJ兼プロデューサー、アヴィーチーの代表曲「Wake Me Up」を優雅にカヴァーするなど、彼らがめざしていたクラシックやロックの垣根を飛び越える挑戦がいよいよ始まった。
(注)本コラムは2015年1月24日に公開されました。
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