「お辞儀っていうのを知ってるかい?」
ジョニー・キャッシュが、ナッシュビルの自宅にU2を初めて招き入れたとき、彼はボノにそう訊いた。
そして、二人は腰を折って挨拶を交わし合った。うやうやしい出迎えのあと、キャッシュはボノとベース・ギターのアダム・クレイトンに眼をやり、「こんな時、アレ(Drug)があったらなあ」とニヤと頬をゆるめた。
説教をたれるような男じゃない。いつだって俺はありのままさ。ボノにはそんな風に聞こえた。
1989年に東西ドイツの壁が崩壊したベルリンで、「Achtung Baby」を発表したボノは、宗教や政治など社会問題と正面から向き合う姿勢を明らかにし、時代の寵児になった。
その直後の出会いだっただけに、ボノは気負いに満ちていたはずだ。キャッシュのそのひと言で緊張がほぐれ、二人はたちまち心を通わせることができた。
ジョニー・キャッシュは、ナッシュビルの家の敷地内に小さな動物園を持っていた。なぜそんな動物が好きだったのかまったくの謎だが、「エミュも飼っていた」という。
「そいつと格闘してね、もう少しでくたばるところだった」と笑いながら、キャッシュはボノ語った。
エミュはダチョウに次ぐ体長2mのオーストラリア最大の鳥で、飛ぶことはできないが時速40メートルの俊足。めったに暴れることはないというが、それに襲われて杭を片手に応戦して、格闘の末にことなきを得たこともある。
「ジョニーに比べたら、ぼくらはみんな弱虫さ」と、ボノはことあるごとに言ったという。
たった一度の出会いで、ボノがいかにキャシュに魅了されたかは、1993年の「Zooropa」でのコラボレーションを見るまでもない。
キャッシュのために詞を書いたボノの依頼にこたえ、「The Wanderer」のリード・ボーカルをジョニー・キャッシュがとるという異例のセッションが実現した。
これまで、U2のリード・ボーカルの座を誰にも明け渡すことがなかったボノの肉声は、この曲のバックにシャウトとして記録されている。
父と子ほどの歳の差がありながら、二人の絆はキャッシュが世を去るまで続いた。
(このコラムは2014年9月13日に公開されました)
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